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平成28年度学術研究助成金(総合研究)

研究目的Research Objective

(1)研究目的

今日の東アジア諸都市が直面する政治・経済・社会の諸問題の多くは、急速な国際化状況下で展開する新たな技術的水準と各都市が歴史継承体的に形成してきた実態の角逐に起因していることは、周知の事実となっている。このことは、東アジア諸都市が抱える諸課題解決に向けては、各都市形成の歴史的実態の解明が不可欠な課題であることを意味している。

本研究は、上述課題の好個な事例である、歴史的な多民族共住地域である中国東北地域においてロシアや日本などの列強の影響を強く受けながら急速な都市形成が進んだ20世紀前半のハルビンを具体的な研究対象として、日本大学文理学部の特徴である「文理融合」研究環境をフルに活かしつつ、歴史学、地理学、文学、言語学、社会学、情報学の各研究分野研究者との共同研究を通じて解明し、その成果を広く社会に還元できるデジタルアーカイブを構築することにある。


(2)研究到達目標

これまでの文理学部での研究プロジェクトを通じて蓄積された20世紀中国東北地域に関わる諸資料(現地刊行定期刊行物、調査報告書、旅行記、回想録・日記、ビジュアル・メディア資料、等々)からハルビンに関するデータを抽出・整理する作業を前提に、研究組織の各メンバーがそれぞれの専門分野(歴史、地理、民族、思想、言語、政治・経済)からハルビン都市形成における特徴を解明し、それらの成果に基づく相互討論を重ねて、各分野の特徴が如何に相互連関し都市形成を実態化していったのかを解明する。

以上の成果を、ハルビンのデジタルマップにリンクさせ、WebGISと3Dデジタル空間を利用した双方向的なデジタルアーカイブを構築し、都市形成の具体的歴史過程実態を統合的に開示するビュアーシステムを構築し公開する。


(3)学術的な特色・独創的な点

本研究の学術的な特色・独創点としては、次の二点をあげることができる。

(@) 都市形成実態に関する学際的研究である点:
今日のアジアの諸都市が抱える諸問題への処方箋は、一研究分野での成果のみに依拠して対応できるものではなく、様々な研究分野の諸成果を総合的に考察し構築せねばならないことは、もはや周知の事実となっている。このことは斯様な都市問題への処方箋追及における基礎研究として、様々な資料が利用可能で中長期的な展望の下で都市形成実態の解明の可能性を多分に含む歴史事例研究の重要性を示すものともなっている。しかしながら、従来のアジア諸都市の歴史研究では、主に個別実証的な再構成に主眼がおかれ、諸事象が内包した多様で重層的な実態の再構成は十分なされておらず、そのために不可欠となる学際的研究も十分なされていなかった。
本研究は、この研究上の問題点を、歴史学を中心としつつ、地理学、文学、言語学、政治学、社会学との学際的研究により克服しようとするものである。とりわけ、本研究において分析対象としているハルビンは、多民族共住地であると共に、戦前期日本が深く関わった「満洲」において新たな国際環境の下で急速な変貌をとげた都市であり、その意味で現在の都市研究の好個な歴史的事例を提供するものともなっている。

(A)都市研究における新たな資料空間の形成と歴史資産蓄積のプラットフォームの形成:
本研究は、上述した通り、従来、個々の専門研究領域で個別分散的に蓄積されてきた知見を総合化することで、都市形成実態の解明を大きく前進させることを目指すものであるが、同時に、その成果を、情報学研究との共同研究により、デジタルマップにリンクさせ、WebGISと3Dデジタル空間を利用した双方向的なデジタルアーカイブとして公開するという新たな試みを行うものでもある。それは、都市形成の実態を構成する諸要素、ある地点をクリックすれば、そこで生起した事象が提示され、その事象をクリックすれば、それに関する分野越えた諸情報が開示されると同時に、その諸情報は他の地点の他の時間での諸情報ともリンクし得るという、ある事象の多面性と重層性を提示することを目指しており、ハルビン都市形成実態を考察する上でのこれまでにない総合的な資料空間の構築をもたらすものでもある。しかも、双方向性であることは、日本社会に言わば埋蔵されている膨大な主に近代東アジア都市に関する情報の発掘とアーカイブ化を進め、研究蓄積が極めて薄い東アジア都市形成の研究基盤の充実に大きく貢献し得るものともなっている。


(4)予想される結果と意義

本研究では、以下の3点にわたる、結果と意義が予想される。

(@)構築されるデジタルアーカイブを通じて、人類の知的遺産である各種資料の保存・利用環境の飛躍的整備に加えて、同アーカイブが双方向性であることから、日本大学の特徴でもある膨大な卒業生からの貴重な資料の発掘と集積という効果が期待される。とりわけ、戦争体験を通じて東アジアと密接な関係を切り結んだ世代の高齢化をふまえると、本研究は近代日本の貴重な歴史的遺産を記録・保存するラストチャンスを活かすという意義も有している。

(A)デジタルアーカイブにWebGISと3Dデジタル空間データが利用されることで、従来の文字情報、画像(地図)情報の配信だけでなく、地理座標をもったデジタル空間データの配信が可能となり、都市内移動ルートの設定や距離計測、都市域の面積の計測、都市景観などの様々な空間分析も可能となり、都市工学、建築学などにも汎用可能な各都市の社会資本整備に結びつく成果を提供できることも期待できる。

(B)都市形成の多様性と重層性の実態解明は、現代社会の大きな問題である他者認識の一元化と単純化を伴い進展する様々な暴力の連鎖に対する予防的認識の涵養という今日的意義も有しており、他者に対する柔軟かつ豊かな認識を育む、平和学などの人文・社会系学問における貴重な教材ともなり得るものである。とりわけ、本研究の成果が最終的にはデジタル化した形で公開されることで、本学はもとより、他大学などの各種教育機関での歴史学のみならず、平和学や危機管理学での授業教材として広く利用されていくことも期待される。



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